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【短編小説】 たなからばたもち。
【短編小説】 たなからばたもち。 「一年間、留学することになったの。だから、ちょうど一年後の七月七日に、再開しましょう」 「それじゃあ、まるで織姫と彦星のようだ」 私が言うと、彼女は小さく「そうね」と少女のように笑った。 この一年間、お互いに学問に励み、そして、一年後の七夕の夜。 私たちは再会して、愛を誓い合う。 ――はずだった。 「ごっめーん、彼氏できちゃった☆」 私は三日ほど前に彼女から送られてきたメールの本文を読み上げた。 「言い出せてなかったけど、ぶっちゃけた話、実はこっち着いてから二週間くらいで彼氏出来ちゃってたのよね。すっごい素敵な彼なの。そういうわけで、ごめん。一年前の話、忘れて。いやあ、あの頃はお互い若かったわね。まあ、あなたもどうせ私がいない間に他の女作ったでしょう? これからは友達として仲良くしましょうね!」 感情を込めずにただ淡々と読み上げる。 「ふっ……」 携帯をぱたんと閉じ、机の上に置く。取り替えるように紅茶の缶を手にし、口元へ持っていく。疲れを取るようなくどいほどの甘さが、今は無性に憎憎しい。 「ふざけるなぁっ!」 勢いよく缶を机に振り下ろす。衝撃により液体が中から飛び出て、顔にかかった。踏んだり蹴ったりである。 「やかましい。愚痴りたいなら家でひとりでやれ」 何やら怪しげな液体をビーカーからフラスコにスポイトで移しながら、笹岡が怪訝な表情で私を見た。眩しい白衣姿がこれでもか、というくらいに怪しい雰囲気を更に怪しく演出していた。 「そういう女に惚れた君が悪い。諦める事だ」 「もう諦めているさ。ただ、今の私の心理状態は、納得はしたが理解が出来ていない、という具合だ。彼女との初めての出会いが運命的であったのなら、尚更だ」 「くだらない」 興味なさそうに眼鏡を人差し指で押し上げると、すぐに実験器具のほうへと顔を戻す目の前の人物。その仕草こそ、研究室きっての変わり者と呼ばれる笹岡たる所以だと思った。正確には、研究室きっての変わり者とつるんでいる変わり者、だがその辺の微妙かつ曖昧な誤差などどうでもいい。とにかくこいつという人間は人の恋路が気になったりはしないのだろうか。野次馬根性というものを微塵も持ち合わせていないのだろうか。堅物な奴だ。 「まあ、あんな女のことなどもう思い出したくもないが、お前がどうしても言うのなら私はその運命的な出会いを話すこともやぶさかではない」 「別にどうでもいい」 「そう、あれは一年前の春のことだ」 「話すのか」 一年前の春、私は失意のどん底にいた。 当時と言えば、私が不眠不休、全身全霊を込めて灰になりかけるまでに作り上げた進級のかかった研究レポートが、教授のお眼鏡にかなわなかったのかコンタクトにかなわなかったのか、さながらセミの寿命の如き早さで不受理という審判が下されてからそう日は浅くなかった頃のことである。 進級が出来ないとの烙印を押された私は、「そうだ、次の研究は人の首にかかる重力を調べよう! ようしそうと決まれば善は急げ! 踏み台とロープを買ってこよう!」と意気揚々と思いつくくらいには意気消沈していたのだ。 雑貨屋で、手ごろな縄がないかと目を光らせていたとき、出会ったのが彼の運命の人――咲織 姫華(さきおり ひめか)。その人だった。 「ああ、今思い出してもあの時の彼女は輝いていた」 笹岡は聞いているのかいないのか三角フラスコを空中で揺らしている。貴君は休日の昼下がり、大学の研究室に篭って若い体を持て余しすることといえば三角フラスコを振って観察する、というそんな人生が私の話よりも楽しいのか、阿呆なのか、と真面目に問いかけたいところだったが、それをぐっと堪えて話を続けることにした。そもそも、そんな時にそんな場所で研究するわけでもなく、ただ失恋した相手との出会いを回想している自分こそがド阿呆なのであると聡明な私は気づかざるをえなかったが、そこは敢え て回避しておこう。いやはやまったく、賢いのも困り者である。 「すみません、ちょっといいですか。まず、彼女はそう切り出してきた」 あの、木材を買いたいのですけど、どこに売っているのでしょうか。彼女はどんな屈強な男をも魅了させてしまうような可愛らしい声で、私にそう尋ねてきた。 相手が私のような聡明かつ紳士の美青年とはいえ、初対面の人物に話しかける緊張ゆえか、胸に手を当てて少々困惑した表情で私を見上げる彼女の可憐さと言ったら、とても絵では表せないくらいに可愛らしく、ほとんどの男ならばその様子を見た時点で彼女の一生を守らせていただきますと誓いを立てるには十分なくらいの妖艶さであった。女神――そう称するになんの不都合があろうか。その日、女神が、何てことない街のたいしたことないホームセンターという下界に遥か彼方の頂から神々しく舞い降りたのである。 「というわけで、付き合うに至ったんだ」 「さっぱり話が読み込めない」 笹岡は顔をしかめて、冷たい流し目を私に送る。 「それで何故付き合うことになる。そこから付き合うに至る経緯がすっぽり抜け落ちているじゃないか」 「笹岡。お前にはわからないかもしれないが、人には経緯や理由などどうでもよくなるときがあるんだ。インスピレーションというやつだな。お互いに、一目惚れという奴だ。我々は宇宙人の通信の如く、ビビっと来たのだよ。赤い糸で繋がっていたのだろうな。うむ、我々の出会いはすなわち運命だったのだよ」 「科学的でないな」 笹岡はガラス棒でぐるぐると液体をかき混ぜながら溜息をつく。 「それで、君はその赤い糸で繋がっていた運命の人とやらに失恋してここにいるわけだが」 「運命とは往々にして残酷なものであるな」 「そんな結論でいいのか……」 「いいわけあるか。彼女は私という誇り高き男を裏切って他の男、しかもあろうことか外国人の野郎に走りやがった。インターナショナルだ。なんだ、顔か。顔の問題か。私だって、それなりに鼻は高いし、背だって高い、骨格だってちゃんとしている。何がいけないというのか」 「まあ、確かに君の外見のみを評価するならば素敵と言えないこともない」 「待て、その言い方だと、まるで中身の方に問題があるように聞こえるぞ」 「そのものずばりだろう」 「馬鹿を言うな。中身に関しては私は何らコンプレックスを抱いてなぞいない。この世にこれほど聡明で紳士かつ少年のような純粋で純情な精神をもった素晴らしい男性がどこにいるというのか。事実、この一年、私は彼女のことを思い続け、他の女性には目もくれなかったのだぞ」 「確かに、君の浮いた話は聞かなかったな。何人か、君の外見に騙されて告白していたようだが」 「人聞きの悪い事を言うな。皆、私の内面に惚れたのだ。その証拠に全員、数分間の会話の結果、私の一途な想いに心を打たれてか、私が断る前に自ら身を退いてくれた奥ゆかしい姫君ばかりだったぞ」 「きっと、その数分間の会話が問題だったんだろうな」 笹岡は何がおかしいのか、少しだけ口元を緩めた。 「ええい、うるさい。そもそもだ。俺たち研究生の中じゃ、モテるのは断トツでお前だろう」 私はピッと人差し指を笹岡に向けた。名は体を現すという教えどおり、これこそ人差し指の模範的な使い方と言えるだろう。 「そんなお前に褒められたところで何ら嬉しくもない。今年のバレンタインはいくつチョコを貰ったんだよ」 「大したことはない。例年並だ」 「ということは20個くらいか」 小さく頷く笹岡。卑屈な人間でなくとも、笹岡の言葉も仕草も嫌味として受け取るほかはない。 「皆、何を考えて貴様なんぞにチョコを渡しているのか。嘆かわしいな」 「まったくだ。実に不可解だよ」 笹岡は吐息混じりに言うと、肩をすくめた。 その仕草もどこぞの一流モデルのごとく様になっていて、なんだかむず痒いものを感じる。何のかんの言いつつも顔は間違いなく美形の部類に入る人間だ。これでモテなかったら私の感覚が常人のそれと外れていると言う事になりかねないので、そういう意味では笹岡がモテることで私の感覚も世間のそれらとさほどズレてはいないのだなとわかり、少しは安堵もできるというものだ。 「まあ、そういうわけでだ。そんな私の純粋な想いは一方的に踏みにじられ反故され裏切 られるというかくも儚き昨今の世のあらましを体現するかのような形で結果的に終わってしまったということで、それすなわち、もうそのような泥臭く暑苦しい契りなど私が守ってやる道理は一ミクロンもないというわけであって。よって、今日からの私は絶賛彼女募集キャンペーンと相成った」 「おぞましく嫌なキャンペーンだ」 「そこで笹岡。君に頼みがある。合コンをセッティングしてくれないだろうか」 橙色に輝く外灯の下を、笹岡に支えられながら私は産まれたての子鹿のようにぷるぷると歩いていた。 「畜生! 畜生!」 軽薄な電飾を避けるように、私はことさら薄暗い路地の方へと足を進ませていた。闇に染まってしまいたい気分であった。 「まったく世話がやける。タクシー止めるか?」 「いい。夜風に当たりたい気分なんだ。金がないわけでない。断じて違う」 「別に疑ってないから」 私の何がいけなかったのだろうか。 まずファーストインパクトの反応は上々であった。外見は内面から出ると言うのだから、私の素晴らしき内面のおこぼれを貰っている外見を見て女性陣が色めき立つのは、特別に珍しいことでもない。問題があるとすればそれ以降だ。簡単な挨拶を済ませ、席替えなどの末、私は自らの身軽な体の重い腰を上げ、本気を出すことにした。私のこれまで人生で培った交渉術を惜しむことなく披露すると、女性陣は顔を紅潮させて一斉に私を見てきた。私が本気を出せばこんなものだ、と皆に勝利の美酒に酔いしれるかのごとく素敵な笑みを見せたとき、隣の女狐から張り手、あるいはビンタ――そう呼ばれるものが私の頬へ被弾した。 「あれは君が悪い。普通、女の前であんな話はしない」 「だが、事実だろう」 「事実だから、性質が悪いんだ」 暗がりの中ゆえよくは見えないが、微かに笹岡が困ったような笑みを浮かべたのが見えた。 私が合コンの場で話したことと言えば、自らの汗と血と涙が入り混じった壮大で素晴らしく時には切ない人生経験によって独自に編み出された男女の恋愛心理学くらいのものだが、皆、何がそんなに気に入らなかったのだろう。もしかするとあまりにレベルが高すぎたのかもしれない。常人に私並みの理解度と知能を求めたことこそが浅はかだったのだろうか。これは私らしくないとんだ失態であった。 「だが、先刻の席で話したように、人は弱っているときに慰められると惚れやすくなるというのは確かだと思うぞ。かように恋愛なんていうものはその時の些細な心理やちょっとした状況において大きく左右されるような不確実なものであって、そういう意味では一種の精神病とも錯乱状態とも呼べるようなそれに多大なる時間や金や労力を使うなど、改めて思えば愚の骨頂であるものだな」 私の言葉に笹岡は黙って首を横に振り、そして、少しだけ顔を上げて、夜空に浮かぶ星を眺めるようにして言った。 「君はもう少し女心を学ぶべきだ」 船橋行きの電車に笹岡が乗るのを見送ってから、私は南千葉行きの電車を待っていた。このような時刻だというのに、片手に鞄、片手に文庫本というスタイルの会社員を見ると「お疲れ様です。今の国を支えているのはあなたたちです」と声をかけたくなる衝動にかられる。嫌味に取られる可能性を考慮した上で実行はしないが、100パーセント紛れもなく心からの賛辞と労わりの心から来ていることを信じてほしい。 ああ、自分も数年もしたら社会の歯車となってしまうのだろうか。これこそ、それよりも進級する方が先だ、と考えないがために更にその向こう側のことを考えるという、目先の重大で深刻で大切な苦労の種を放って置いてその先の未確定な不安を思い悩むという高度な現実逃避テクニックである。ぜひ試してみて欲しい。世の中、不安となるその場に上がることがなかなかに困難だったりする。 人は、時間を持て余していると余計なことを考えてしまう。 (電車はまだか……) 我が国の素晴らしき整理されたダイヤグラムが私という一個人のちっぽけな願望によって早めに来るということもなければ遅く来るということもほぼ零の確立と言ってよく、電子掲示板を見る限りでは、あと15分ほどホームで立ち往生していなければならないようであった。 ああ、それでは15分間、無駄に思い悩んでしまうではないか。 なるべくなら刺激となるようなも のを見つけようと、初めて動物園に来たジャリのようにキョロキョロと、端から見れば齢20を越えたとは思えない落ち着きのなさを体で表していると、向こう側の電車から、思いもがけない人が降りてくるのが目に入った。 ――咲織 姫華。 今となっては水泡と消えたことだが、本来ならば昨日である七月七日に我々は逢瀬を満喫しているはずであったのだ。ならば今、彼女が留学を終えて帰ってきているというのは考えるまでもなく当たり前のことだ。 私は誇り高い男であるから、彼女が身勝手に私を否定しても顔色ひとつ変えず、潔く身をひいて新たな恋を模索しているというのはここまで見てきた賢明な読者諸君ならばおわかりだろう。私には未練などこれっぽっちもミトコンドリアほどもないのである。 ……である、が。 一方的なメール通行のみで我々の恋は終わっていいものだろうか。最後は、話し合って別れた方がお互いのためにもいいのではないだろうか。その方があと腐れなく済むし、お互い新たな恋にますます前向きになれるというものではないだろうか。ああ、そうとも。そうに違いない。 頭ではそう理解しても、なかなか足を踏み出せない。そうだ、所詮私も人の子なのだ。人並みに緊張もすれば躊躇いもする。私が声をかけたら、咲織さんはどのような反応をするだろうか。それが否定的な表情だとしたら、私の心は二度と立ち直れないのではないか。だがしかし、何故こちらが気に病む必要があるのだろう。一方的に交際を破棄してきたのは向こうだ。言うなれば向こうに非があるということだ。何故、こちらが向こうの顔色を窺うような、いかにもこちらが下手ですよと言わんばかりの卑屈な行動をとらなくてはならない。私に落ち度など何一つないはずだ。私は間違っていない。ならば間違っているのは彼女、延いては世間である。 そんなことをぐだぐだと念仏を唱える坊主よろしく暗唱していると、彼女が駅の階段を下りていってしまった。何故こちらに気づかない。いや、むしろそれでよかったのだろうか。とにもかくにも私は慌てて彼女のあとを追った。 一度間を置いてしまうとなかなかに話しかける契機がつかめない。何事もまずは行動することが大事なのだな、と身を持って痛感しながら、未だ心の準備が出来ていない私は、彼女の後ろを適度に距離を保ちながら物音を立てないように静かに歩いていた。 まず何て声をかければいいのだろう、という私の悩みをよそに、何をそんなに急ぐのかと言いたくなるような勢いで歩の速度を上げる咲織嬢。周囲の電柱やら自動販売機が見えているのか、はなはだ心許ない。彼女は常にがむしゃらなところがあり、脇を固めることがつい疎かになるきらいがあった。そんなことでは世を渡って行くうちに、どこで危ない目に遭うかわからない。もっとその点を注意しておくべきであったが、今となってはそんなことを忠告する筋合いではない。 何を急いでいたのかと思えば、思いがけない事に彼女は喫茶店に入った。よほどお腹でも減っていたのだろうか。彼女も近年のダイエットブームの波に漏れず、する必要もないのに常に臨戦体勢であった。その調子ではいつか倒れてしまうのではないか、と私はいつも危惧していたものだが、今はこうして小腹が空けば何か物を入れる程度には改善したのかもしれない。なによりだと胸を撫で下ろす。 店はガラス張りになっていて、外からでも中の様子が見て取れた。明るい照明が誰でも気軽に入って来いと言わんばかりの寛容性を演出していて、温かみのある木製主体の構造は、なかなかに小洒落た喫茶店であるように見受けられた。 私は中の彼女から姿が見られないように電柱の影に隠れ、毅然と顔を上げて彼女を眺めた。幸いなことに窓際に座ってくれた彼女の姿がここからは一目瞭然であった。 メニュー片手にウェイターに何か頼んだと思ったら、忙しなルージュ色の小さな可愛らしい鞄の中からこれまたルージュ色の可愛らしい携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけていた。私はもしやと思い自分の携帯電話を取り出してみるが、一向に着信が鳴る気配はミジンコほども感じられない。そもそもこの数ヶ月、誰かから電話がかかってきた記憶がない携帯電話を、私は「いつも寂しい思いさせて悪いな」と丁寧に扱い労わるようにして涙ながらに鞄に戻した。 見上げると彼女は私の知らぬ誰かとの電話を終えたようで、少し安堵したかのような表情でカップを口元に運んでいた。推測するに、どうやら何かひとつ心配事が片付いたのであろう。自分のことのように喜ばしい気持ちになる。よかったなあ、咲織さん、と別に何もしちゃいないことは棚に置いてしばらくひ とり、カップを両手にうっすらと笑みを浮かべている彼女と同調するように胸をほんわかとさせていると、唐突に後ろから肩を掴まれたのを感じた。 振り返るが、暗がりゆえよく表情は見えない。ただ、その背丈、肩幅、髪の色等から察するに外国人であるということはわかった。 「お前、何者だ」 風貌とは裏腹に流暢な日本語で言われて、少し面食らう。何よりも、初対面の相手に対してその不躾な言葉は何だこのマナー知らずめが言い返したくなるが、その声に嫌な重圧感が含まれているのを敏感にいち早く感じ取った私はひとまず丁寧に問い返す事にした。一方で両足はすでに瞬間的な逃走へ向けて張り詰めた弓のごとく準備されている。心身ともに機敏な反応と褒めたいくらいである。 「あの、私が何か?」 精一杯の作り笑顔で問い返す私に、無教養で図体だけがとりえであろう外国人野郎は、 「姫華から、電話来た。変な男、自分のあとをつけている、怖い、と」 その台詞に私は驚く。驚天動地だ。なんたること、彼女にはストーカーがいたらしい。そして何の因果か運命の悪戯か、どうやら彼はこの私をそのストーカーとでも思いこんでいるらしい。まったく馬鹿な話で失敬千万である。私ほどの紳士をストーカーと間違えるなどという愚かな思考に至った目の前の大馬鹿にほとほと愛想がつきる。私は怒り心頭に発したが、得体の知れぬ馬鹿男とみすみす同格で言い合う必要はないと平静を保った。 「貴方は、誤解をしてらっしゃる」 「ごまかすな、この変態野郎」 「僕が彼女をつけたのは今日が初めてで、それも並々ならぬ事情があってのことだ。わかっただろう。断じてそういうアレじゃない」 「奇遇だな。姫華が、ストーカーの存在を感じたのも今日が初めてらしい」 「確かにそれは奇遇だ」 「痛い目を見ないと、わからないらしい」 「そのストーカーがか。そこまでしないと駄目とは困った野郎だな。武力行使は美しくなくていただけないが、仕方がない。咲織さんのためなら、何なら俺も協力してやってもいいぞ。共通の敵がいるなら、俺たちは仲間だ」 私はなんちゃって暴漢の外国人くんの分厚い手を取り、がっしりと握手をした。今ここにひとつ、咲織さんの人望によって、男の友情が生まれたのだ。ああ、なんと美しい話か。 ゴミ捨て場で私は朝を迎えた。 頭痛が酷く、体の節々が悲鳴を上げている。重たい体をなんとか起こし、唾を吐くと、赤い液体が口から出た。 「糞……」 なんとも言えない感情に泣きそうになる。私が何をしたというのだ。咲織さんからは一方的に裏切られ、糞外国人からは一方的に殴りつけられ。 私が何か悪い事をしただろうか。ふたりに迷惑をかけるようなことをしただろうか。これだけ心身ともに痛めつけられるようなことを私がしたか? 誰か知らぬあの外国人は、今頃彼女のベッドで「もう大丈夫。また来ても俺が追い払ってやる」などと気持ちの悪い悦にひたっているのだろうか。それに彼女は素敵と目を輝かしたりするのだろうか。 肩を抱き、壁にもたれかかる。歯を食いしばり、強くアスファルトの地面を踏む。 気を張っていないと、張り詰めていないと、泣き出してしまいそうだった。 しかし私は誇り高い男であるし何より20を過ぎた男が道中で泣き出すなど気持ち悪い事この上ない。そんな光景見た日には一週間は悪夢にうなされること必至である。そんな悲しい犠牲者を出さないためにも、私は泣くわけにはいかない。怒り以上に、振り払えない哀しみを自分の中に感じていたが、考えないようにして、 「ああ、畜生」 ただそれだけを呟いた。 「笹岡、申し訳ないが、今日は欠席するとの旨を教授に伝えてはくれないだろうか」 「大学まで来て置いて何を言ってるんだ」 私の言葉に呆れたように振り返った相変わらずの白衣姿の笹岡が、目を丸くした。 「なっ……何があったっ!?」 「通りすがりの外国人に襲われたんだ」 「いつから日本はスラム街になったんだ」 笹岡は、「待ってろ」と言い残すと手早く救護室から救護セットを持ってきて簡単に手当てをしてくれた。一気に消毒液の匂いが研究室に充満した。 「……ひとまずは、これでよし」 「悪いな」 私が顔を伏せながら礼を言うと、笹岡の冷たい手が私の頬に触れた。顔を上げると、泣きそうな顔をした笹岡が見えて、意表をつかれる。こいつのそんな表情を見るのは初めてだった。 「何があったかは知らないが……あまり無茶はしてくれるな……心配するじゃないか……」 吐息が多く含まれた台詞。これも初めて聞く類のものだった。徐々に笹岡の顔が曇り、俯き気味になる。 「な、なんだよっ。泣くことがあるかっ」 「だって……かわいそうで……」 「哀れむなっ。余計に惨めに思えるだろうがっ」 笹岡の目から零れた雫が、彼女の太ももに落ちた。それを見て初めて、珍しい、今日の笹岡はスカート姿か、よく似合っている、などと場にそぐわない暢気かつ阿呆な思考を繰り広げてしまった。 「とりあえず、涙を拭え。俺が困る」 「うん……」 笹岡がハンカチを取り出し、自分の眼鏡を外してそっと目元拭う。 そこで私は、自分の体に稲妻のようなものが流れ視神経や人の脳を支配する――ええい、んな回りくどい言い方はやめだ。正直に率直に言おう。 私は、一目惚れをしたのだ。 目の前に、彼女に。 「なあ、笹岡」 「……うん?」 「明日から、コンタクトにしてみないか」 今までの彼女との会話や出来事が、走馬灯のように私の脳裏に新手のコンピューターウイルスかと思うくらいにこれでもかと流れ込んできた。そこに映っているどの彼女も可愛らしく、そこに存在しているどの時間も素敵なものだと感じられる。 大馬鹿野郎と罵りたければ罵ってくれ。私もそう思う。 でも、仕方ないではないか。彼女を、好きになってしまったのだから。 恋愛などというものは、そんなものなのだから。インスピレーションというやつだ。運命というやつだ。 そうさ、時には、型にはまった幸せと言うものも、悪くない。 その日、何てことない大学の、薄汚れた研究室に、女神が遥かな頂から神々しく舞い降りた……なんてことはまるでなく。そうではない。いつも女神はそこにいたのだ。ただ俺が救いようのないどうしようもない阿呆なばかりに気づかなかっただけなのだ。 私の絶賛彼女募集キャンペーンは終わりそうにもない。 いや、ある意味では終わりを迎えるのかもしれない。 ―――――――――――――――――― 短編小説。 タイトルに特に意味はないです。 一ヶ月近く小説を書いていなかったせいなのか何だか書いていて凄い違和感が。 こ、これがブランクってヤツか・・・!(違います 物語の基本はやっぱりハッピーエンド。ハッピーエンドが好きです。 こういうキャラは書いている分には楽しいのですが、読む分には苦痛なんじゃないかと少し不安。 CURURU終了までにどれくらい書けるかなー。月1くらいのペースで書いていければ。 ではでは、読んでいただきありがとうございました。 感想・批評等いただければ幸いです。
投稿日時: 2009-07-02 11:54:32 【ブログへ行く】
「赤い糸 DS destiny」の最新ブログ一覧
ドクターイラーの大いに語る : ロックマンXについて語る
ドクターイラーの大いに語る · < SDガンダムGジェネレーションDSについて語る. 2010/8/310:9 ... そんな彼が変質してしまったのは、起動直後の赤いイレギュラー、ゼロと戦ったときです。ゼロの中に組み込まれていた、イレギュラーを生み出すウイルスに感染...
投稿日時: 2010-08-31 00:09:12 続きを読む
スゲー!!!やっちまったゼッ!!! | 73rin日記
フォレスト三木ゴルフ倶楽部⇒ ハーツオブアイアン (09/15); 8月27日(金)晩御飯⇒ 赤い糸 DS destiny (08/28); 一人焼肉⇒ 赤い糸 DS destiny (08/25); カラオケ⇒ 赤い糸 DS destiny (08/16). Recommend. 素材満載 ブログで作る かんたんホームページ ...
投稿日時: 2010-08-30 21:12:00 続きを読む
腐りきってます。 グローリア号航海記
侍道2 ポータブル幻想水滸伝ティアクライステイルズ オブ ハーツ 女神異聞録 デビルサバイバー無双OROCHI 魔王再臨喧嘩番長3 ~全国制覇~ うわさの翠くん!! うわさの翠くん!! 2 星色のおくりもの金色のコルダ2fアンコール赤い糸 destiny 赤い糸 DS ...
投稿日時: 2010-08-27 12:10:42 続きを読む
凛&寿々音: 探偵の情報
2 Lineage2 MMO 【DSの最新記事】 ウィル・オ・ウィスプDS いぬ会社 赤い糸 destiny DS スーパーロボット大戦K 電撃学園RPG Cross of Ven.. チョコ犬のできたてスイーツワゴン NDS 探偵 神宮寺三郎DS 伏せられた.. 黒執事 ファントム アンド ゴースト NDS ...
投稿日時: 2010-08-26 12:20:22 続きを読む
【中古】ニンテンドーDSソフト 赤い糸DS
【中古】ニンテンドーDSソフト 赤い糸DS 価格:770円 この商品のご購入は画像をクリック 発売日 2008/12/25 定価 3990円 メーカー アルケミスト 型番 NTR-P-CIAJ JAN 4519898002400 関連商品はこちらから アルケミスト. 【ユーザーレビュー1】 ...
投稿日時: 2010-08-26 03:40:27 続きを読む
「赤い糸」で繋がっているマーケティング - masaのサービス見聞録
昨年の冬、年を書くと離婚にも発展しかねないので年齢は書かないが、カミサンが「映画赤い糸に行っていい?... ... 赤い糸 DS アルケミスト 2008-12-25 売り上げランキング : 7799. Amazonで詳しく見る by G-Tools ...
投稿日時: 2010-08-25 12:30:00 続きを読む
腐りきってます。 Miracle Jump
侍道2 ポータブル幻想水滸伝ティアクライステイルズ オブ ハーツ 女神異聞録 デビルサバイバー無双OROCHI 魔王再臨喧嘩番長3 ~全国制覇~ うわさの翠くん!! うわさの翠くん!! 2 星色のおくりもの金色のコルダ2fアンコール赤い糸 destiny 赤い糸 DS ...
投稿日時: 2010-08-23 09:54:23 続きを読む
留学日記 青汁+ウコン+カルシウム+酢=健康食品≠おいしい
... (-_-メ)4n1:片思いは切ない (08/21) · The Blues:片思いは切ない (08/19) · 富士山:日本からの来客者 (08/11). 最新トラックバック. 関連記事:「大変だ!!!!!」について (09/13) · 赤い糸 DS destiny:赤い糸 DS destiny (07/14). 月別アーカイブ ...
投稿日時: 2010-08-21 18:22:36 続きを読む
長沢さん|美佐貴のブログ
赤い糸 DS(田所麻美)アンジェリークエトワール(レイチェル)いつか、重なりあう未来へ(カラミティ・フォーセット)ヴィーナス&ブレイブス~魔女と女神と滅びの予言~(ユマ)エクソダスギルティーネオス(ラーライラ)SDガンダム GGENERATION ...
投稿日時: 2010-08-19 11:03:59 続きを読む
【中古】ニンテンドーDSソフト 赤い糸DS
【中古】ニンテンドーDSソフト 赤い糸DS 価格:770円 この商品のご購入は画像をクリック 発売日 2008/12/25 定価 3990円 メーカー アルケミスト 型番 NTR-P-CIAJ JAN 4519898002400 関連商品はこちらから アルケミスト. 【ユーザーレビュー1】 ...
投稿日時: 2010-08-19 07:30:08 続きを読む
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オリコンシングルランキング1位[7/5付]を獲得したシングル「Okay」、 TBS系テレビ全国ネット「NEWS23クロス」エンディングテーマとしてオンエア中の「この手をとって走り出して」、2006年に発表されCD化が熱望されていた「赤い糸」(日本テレビ系 ...
投稿日時: 2010-08-16 16:37:15 続きを読む
新プロジェクト「新たなる挑戦と恋の物語」アルケミスト|ゲーム特盛 ...
あのこのステキな何もかも~ 恋する乙女と守護の楯 -The shield of AIGIS- ひぐらしのなく頃に絆 第二巻・想ひぐらしデイブレイクポータブル赤い糸 DS 2009年トリガーハート エグゼリカ エンハンスドひぐらしのなく頃に絆 第三巻・螺赤い糸 destiny DS ...
投稿日時: 2010-08-13 23:30:05 続きを読む
川澄さん|美佐貴のブログ
2008年赤い糸 DS(芽衣の母)カドゥケウス ニューブラッド(利根川アンジュ)かのこん えすいー(源ちずる)救急救命 カドゥケウス2(利根川アンジュ)Coded Soul -受け継がれしイデア-(リサ)しおんの王 The Flowers of Hard Blood(安岡紫音)スーパー ...
投稿日時: 2010-08-13 22:17:26 続きを読む
ブログの題名( ゚д゚)アキタヨ・・ どれがいいかな?結果発表 ゚+。。+゚゚+。。+゚ ...
頽廃ロォマンス angel-fishの涙 la fil rouge-赤い糸- with the wind (0票/0%) Sleeping Beautyが1位ですか 2位とくっつけてブログ題名にしますね受刑者の日記とwith the windは合併前のリアタイブログで使いましたね~懐かしいなぁ ...
投稿日時: 2010-08-09 15:31:08 続きを読む
大隊長の活動記録 花澤香菜
THE IDOLM@STER Dearly Stars(水谷絵理); 赤い糸 DS(中川沙良); ARIA The ORIGINATION 〜蒼い惑星のエルシエロ〜(アニエス・デュマ(アニー)); エストポリス(ジェミー); おねがいナイショにしてねKiss(潮見ほたる); 月面兎兵器ミーナ -ふたつ ...
投稿日時: 2010-08-08 15:40:36 続きを読む
ゲーム頭日記 赤い糸DS 感想
ハードボイルドとしてのケータイ小説赤い糸DSをプレイしている最中にヘミングウェイの「老人と海」を思い出した メイにとっての男とは魚でありメイは海にたった一人いる老人にほかならない広がる世界の中 孤独と格闘が静かに続く 赤い糸DS ...
投稿日時: 2010-08-07 20:00:00 続きを読む
【あげくだ】あげます・ください掲示板[全国ホビー]PS2,DSソフトお譲り ...
・DS 赤い糸 :メール便送料込600円 ※12歳以上対象(乙女向) ・DS キングダムハーツ 358/2Days :メール便送料込2500円 ※ケースに引っかき傷あり (パッケージをパカッと開けた状態で極々簡易梱包で宜しければ 80円値引きいたします) ...
投稿日時: 2010-08-02 12:21:20 続きを読む
第1013回「今までで最も遠出した場所は?」かばの飼育日記
最近のトラックバック. 地球防衛軍3:地球防衛軍3 (08/28) · 赤い糸 DS destiny:赤い糸 DS destiny (07/11). 月別アーカイブ. 2010年08月 (5) · 2010年07月 (30) · 2010年06月 (30) · 2010年05月 (31) · 2010年04月 (20) · 2010年03月 (20) ...
投稿日時: 2010-07-31 21:56:11 続きを読む
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「赤い糸 DS destiny」の評価・レビュー
| このゲームの評価 | 管理者のコメント |
|---|---|
|
購入者3人の評価は1.5点
|
このゲームはかなり評価が低いようです。もし購入を検討しているなら、レビューなどを良く読み、納得した上で購入しましょう。 ゲーム詳細を見る |
声優さん目当てに…
投稿日:2010-07-07




杉田智和さん目当てで購入しました。
杉田さんは、いつも通りとてもかっこ良かったし、森田成一さん、福山潤さんと、キャストが豪華でしたが…なんなんですか?この内容は?
メイという主人公が、どうしたいのかさっぱり分かりません。
元々、原作など知らずに買った私が悪いのですが、納得できませんでした。
どろどろしすぎだし、全然きゅん!ともしなかった。(杉田さんボイスには、ときめいたが…)
愛さ... すべて読む
意外に良かった
投稿日:2009-07-20




私的には結構楽しめました。
主人公の芽衣は…たしかにフラフラしている感じですが、それなりに悩みが尽きない女の子と言う感じです。
共感できる所もありました。
前作の『赤い糸DS』もプレイしましたが、
2つ通して言えるのは主人公の芽衣がとても“愛されてる”人物であると言う事です。
正直「いつ好きになられたんだろう?」と言うのはありますが…
でもそれほど愛されてる実感があるゲームなので
プレ... すべて読む
オープニングからドン引き
投稿日:2009-05-23




上の方と同じく、前作とか原作のことは知らずに手にしました。キャストは豪華、システムもそこそこいい感じ。ただ単に、主人公(とストーリー)が浮世離れしてドロドロするだけ。
私はAのお陰で深い愛を知った。しかしBがいてくれたから、そしてCには…しかしDが、と延々と付き合ってた男の名前が次から次へと出てくる時点で引きました。
何でしょう、この自己中オンナは…「アタシ」の愛は何が何でも正しく、好きで... すべて読む
ひどいね・・・
投稿日:2009-04-14




前作の評判、内容等をまったく知らずに、続きだとも気づかずに、おまけについていた特典ボイスCDにつられて購入しました。
原作未読、ドラマもみていない状態でDSをはじめました。
元はケータイ小説とのことなので、文章や内容は仕方ないのかもしれませんが、耐えられません。なんとか、おそらくTRUE ENDだろうというところまでプレイしてからレビューを書こうと思ったのですが、そこにたどり着くまでは苦行で... すべて読む
「赤い糸 DS destiny」の評価・レビューをもっと見る
「赤い糸 DS destiny」についてみんなが質問しているのは?
Q.赤い糸DSは二つありますが、 赤とピンク楽しいのは、どっちですか? また...
赤い糸DSは二つありますが、 赤とピンク楽しいのは、どっちですか? また、ちがいは何ですか? おしえてください(vov)
A.赤が1作目で「赤い糸 DS」ピンクが続編で「赤い糸 destiny DS」⇒http://akaids.jp/ストーリーものなので順番にプレイするべきですね




